2011.6.11.土.

滞ペ記 第四回<たてながのワイルドサイド>

滞ペ記 第4回 たてながのワイルドサイド

北京のトイレの底をのぞきこむと、いろんなものが見える。

じい さんたちが将棋を打っているのが見える。まるで、もちつきのようだ。キネで打ってはウスの中のもちをこねる、という共同作業のツービート。小気味よく手先 は刻んでいく。ぼくは将棋ってよくわからないけれど、あんなパチパチいくもんなんだな。もっと腕組んで顔しかめて、待ったとか言ってシシオドシのある庭園 を散歩するイメージがあったけど、それはもう古かった。これは勝負じゃなくて演奏だ。

ロー ルスロイスが見える。ロールスロイス。それは何度も何度も口の中で転がしたくなるような響きだ。ロックンロールやリサステックマイヤー、賃借対照表、と同 じように。彼は、他の車とは明らかに異なる存在感を放っている。長さと幅を放っている。黒さとタフさを放っている。攻めと守りを放っている。それはもう、 車と呼ぶより愛と呼んだ方がずっと正しいようなありさまだ。街を走りながら、燃料タンクからガソリン代わりのドン・ペリニヨンをぽたぽたと滴らせている。 だから北京のトイレの底は淡いピンクににじんでいる。

サン グラスが見える。バイパス道路のガードレールの影に隠れて落ちている。それは、トンボの目のような形をしたプラスチックだ。ぼくはそれを拾ってかけた。世 界がセピア色に変わった。そしてタモリのことを想った。スタジオアルタは色の洪水だ。ポップでキュートな極彩色のお祭りだ。ぼくはいつもそれを「明るい なー、楽しそうだなー」とゆるんで眺めている。だけど、タモリは四六時中サングラスだ。モノクロのパーティーをいつも口元だけ笑って見つめている。かっこ いいと思う。

トイ レの底にはまたトイレが見える。それは故宮と同じ構造だ。くぐってもくぐってもくぐり足りない。門から門へのサイケデリック地獄。朱色にまぶされた金ピカ に目がくらむ。もはやキリは自分で決めるしかない。適当に道を引き返すしかない。だけど一度トイレに落ちたらそうはいかない。どこかに自分の体をぶつけな い限り永遠に落ち続ける。だからぼくは右の鎖骨を折った。

月見ル君想フ公式TWITTER はコチラ

コメントは受け付けていません。